マエカワの備忘録的な何か

思い立ったが吉日

メディア論 其の四 20171030

メディアの役割

 情報量は少なくてもいい。その代わり、ユーザーの何か(利便性・ネットワーク性など)が向上すればいい。前回の最後に、「映画がテレビに負けた理由」について扱ったが、まさにこれが原因といえるだろう。映画が悪いのではなく、ユーザーの参与度が高いテレビの方が「ユーザーの何か」を向上させたことが大きな理由だ。この、「参与度におけるメディアとユーザーの関係」を用いて、マクルーハンは「映画からテレビ」という遷移を説明した。
 繰り返しになるが、メディアとは物理層だけでなく他の層をひっくるめたものだ。しかし先の例からもわかる通り、「ユーザーの行動」までも含めなければならないようだ。この範囲がメディア論のターゲットになっている。設計段階でも、ユーザーの行動を考慮することが必要だ。

メディア特性

 各メディアについて、物理層、社会(インフラ)層、情報層をリストアップしたものを「メディア特性」という(メディア特性表のほうがいいかもしれない)。これを見ることで、各メディアが持っている特徴を確認できる。ここからは、いくつかのメディアの分析や考え方について書いていく。

広告

 目的がはっきりしていて、広告効果の分析が容易であることが特徴。社会層も、雑誌広告や駅ポスターなど様々。効果的に運営するのが難しいメディアの一つ(シャンプーの広告はひたすらに難しいらしい)。

雑誌広告

 雑誌を買うとちらちら出てくる広告。雑誌広告の特徴には、

  • 立ち読みor購入してくれないと見てもらえない
  • 買ってくれたら場所を問わず見られる
  • 雑誌を読み終わったらもう見られない

などがある。そもそも、「雑誌のすべての特集に興味があるので買う」という人はほとんどいないため、一回で記憶に残るようなアイデアが求められる。そのアイデアとして、「記事のような広告」なるものが最近出てきた。あたかも一つの特集のように振る舞う広告だ。途中まで「お出かけ特集」みたいな顔をして、最後の最後で「実は車の広告でしたー」という感じ。この例とは少しベクトルが違うが、ソフトバンクのCMのような「広告のように見せない」広告が最近のトレンドのようだ。

ポスター

 対してポスターには、

  • 貼る場所によっては、強制的に見せられる
  • 何回も目に映る
  • 興味がなければ、素通りされる

などの特徴がある。雑誌と違って、どんな人にでも強制的に見せられるのが強みだ。風景に溶け込み、サブリミナル効果のように徐々に頭の中に入っていくのも強みの一つ。駅に長く張ってあるポスターの内容は風景と一緒に覚えてしまい、道案内の時に目印として使われたりなど、見る人を選ばないのも特徴。しかし、短期間張りだすポスターなどは、見た人に強く印象付けるため、光や音を用いたり、QRコードを用いてユーザー参加を促そうとしている。デジタルサイネージなどもその一例。


簡単な二つの例を考えてきたが、同じ「印刷媒体」であってもユーザーの行動は全く違う。この特徴を生かしながら効果的に広告を打っていくことが必要になってくる。

ストーリーを伝える

 ここで、この講義のメイン課題である「コミックムービー」絡みの話が出てきた。ここでは、マンガと動画の違いについて触れる。
 マンガと動画の最大の違いは「編集手法」だ。

  • マンガ:空間的編集
  • 動画:時間的編集

また、マンガはふつうありえないような表現の仕方も容易に可能だ。動画でもできるが、高度な編集技術が必要になる。
 このようなマンガ・動画の違いを考慮して、効果的な作品を作らなければならない。

認知言語学 其の三 20171030

認知言語学のスタンス

 構文が違うと意味が違ってくるというのが認知言語学のスタンス。その根拠となる事例が紹介された。

二重目的語構文と与格構文

 例えばこんな文があったとする

  1. I taught Japanese to Paul.
  2. I taught Paul Japanese.

1.は二重目的語構文、2.は与格構文になっている。一見して意味は同じように見えるが、前者は「日本語がPaulへ移動している」ニュアンス、後者は「Paulを日本語が分かる状態にする」ニュアンスを持っている。つまり、前者の文では最終的にPaulが日本語を習得していなくても成り立つということだ。

直接目的語と前置詞句の交換

 例えば、次のような文

  1. Mary sprayed paint on the wall.
  2. Mary sprayed the wall with paint.

1.は「塗料の移動」に焦点を当てているのに対し、2.では「壁の状態変化」に焦点を当てている。日本語でも同じような現象が説明できる。

  1. Aくんは(部屋の)本を片付けた
  2. Aくんは部屋を片付けた

これらは「本の移動」と「部屋の状態変化」のどちらに焦点を当てているのか、という点で違う。意味はほとんど同じだが、そこに含まれているニュアンスが若干異なる。例えば、本が散らかっている部屋を見た親が、子供に「部屋を片付けなさい」と言う。この時のニュアンスは「本を片付けろ」になっている。このように、部分を表すのに全体を使って表現することをアナトミーと呼ぶ。「黒板を消す」なんていう表現も、アナトミーに入る。

事態認知モデル

 上二つの例とは少し性質が違うが、こちらも紹介。簡単に言うと、ある事柄を言葉で説明するときに、一連の流れから説明する部分を決めているという考え方。
 例えば、「A君がB君を茶化して、B君がやり返したら、A君は病院送りになって、みんなはB君を怖がった」という流れを考えてみる。この一連の流れのことを、事態認知モデルではaction chainと呼ぶ。このaction chainは

  • A君は病院送りになった
  • B君がA君にやり返した
  • B君がA君を病院送りにした
  • みんなはB君を怖がった

など、いろいろな説明の仕方がある。では、なぜこのようにバリエーション豊かなのだろうか。ここには、物事を言語化するにあたって必要な概念操作がかかわってくる。
 物事を言語化するには、

  • スコープの設定:どの部分を言語化するか
  • 認知的際立ちの設定:どこに焦点を当てるのか(主語に当たる部分)

の2ステップが必要になる。この違いが構文タイプの選択に反映される。

能動文・受動文

 この二種類の構文は、焦点を当てる位置がそれぞれ違う。

  • 能動文:行為に焦点を当てる
  • 受動文:対象の状態変化に焦点を当てる

このように、焦点を当てる場所が違う。受動文に関して言えば、本来受動化できないものでも、「状態の変化」に焦点を当てていれば受動化できてしまう(違和感なく聞けてしまう)。

付けたし

 英語と日本語の違いも少し取り扱ったので書いておこうと思う。

  • 英語:結果を含意し、能動文が多い
  • 日本語:結果を含意せず、能動文が多い

英文を読む際は、含意されている意味を考慮に入れないと全く別の解釈をしてしまうことがある。
 また、焦点の当て方について取り扱ったが、この違いによって目的語に来る語も違ってくる。そのため、単語を覚える際は、目的語とセットで覚えたほうが断然いい。