認知科学 其の六 20171108
感覚と言語
世の中には、共感覚(音ににおいを感じるとか)、オノマトペ(ふわふわとか)、メタファー(比喩)などが存在している。これらは、感覚機能と言語の相互活性化によって引き起こされるものだということが分かりつつある。
資料映像 from BBC
Case1:文字に色がついて見える
聞いた言葉が視覚情報として目の前に現れる。空港の時刻表を見ると、それぞれの文字に色がついてカラフルに見えるといった例が出てきた。
一つ疑問なのは、「文字本来の色を認識できているのか」ということ。もし、共感覚機能のオンオフができるのであれば、これほど便利なものはないでしょう。次の例は、無条件に、共感覚現象が発生してしまうという例です。
Case2:言葉に味を感じる
本人の中では現実の味とのせめぎあいが起こっているらしく、いろいろな味が衝突してしまうので、料理しているときに喋ることができない。その割に、飲食店を経営している。
この例で疑問に思ったのは、「腹の足しにはなるのだろうか」ということ。ドラえもんの秘密道具で「食品視覚化ガス」というものがあるのだが、これは味わって腹の足しになるという優れもの。味覚に関連する共感覚でも実際に食べていなくても、気持ちおなか一杯になるのではないだろうか。秘密道具に関して詳しく知りたい方は、次のリンクへ。
www.doraemondb.com
この共感覚者に対して、研究者ラマチャンドラは簡単なテストをした。そうすると、言葉と味の組み合わせに一定のパターンが見られた。また、感じる味は子供の頃に食べたものがほとんどだった。ここから、言語獲得の段階で食べ物との対応付けを行っていたのではないかと推測された。ここから発展して味に影響が出てきたのだろうとラマチャンドラは言っている。
Case3:音に色がつく
今度は、目の見えない共感覚者。音に色を感じるという。目は見えないので、脳内のイメージを直接感じているらしい。調べてみると、色を感じる語句を聞いた時に視覚野が活性化していた。
このケースについても、順番を覚える際に色との対応付けを行っていたことが分かっている。しかし、調べてみるとこの「色と文字の対応付け」は別に珍しいものでもない。100人に一人がこのような対応をつけているという報告が上がってきている。
また、別の事例では「音楽に色を感じる」というものがあった。低い音は暗い色に対応し、高い音は明るい色が対応している。しかし、これも一般の人にもある程度備わっている。このことから、もともと共感覚と同じメカニズムを持っていて、それが顕著に表に現れている人が共感覚者なのではないかという仮説が立っている。
Case4:数字を立体的に感じる
色付きの数字が立体的に配置されているイメージが目に見えるという事例。この手の共感覚は計算に使えたり、時間感覚が良かったりと、進化する過程でかなり役に立つ能力になっている。また、この数字に関しての共感覚は多くの共感覚者に共通してみられる(約6割は立体的な数列が見えているという)。
比喩表現
これは共感覚に似ている。
概念と概念を結びつける役割を果たしているのが比喩(メタファー)。これを研究している人に言わせれば、「比喩を突き詰めることで、言語の期限に近づくことができるかもしれない」とのことだ。
例を挙げておくと、「とがったチーズ」という言葉を聞いた時、チーズをたくさん食べている人なら「味がとがっているチーズ」という風に解釈できる。これは、味という概念を説明するのに、形の概念を使ったメタファーになる。
ブーバ・キキ
とがった形と、丸い形を同時に見せて「どっちがブーバで、どっちがキキか」を聞く。
大体99%の人は、とがったほうをキキ、丸いほうをブーバと答えるらしい。これも共感覚的な現象で、形から音を連想する能力が人間に備わっていることを表している。この機能をつかさどっている脳の部位は「角回」と呼ばれている。
ちなみに、自分は全く逆に答えました。
認知科学 其の五 20171101
手話について
手話は一般に手の動きを重視されがちだが、それ以上に非手指動作も大事になる。これら表情などが文法などの役割を担うことがわかっている。
点字
点字はテクノロジーと組み合わせることが容易にできる。
盲者は「点字に触れること」が「見ること」にマッピングされている。記憶するときには視覚野が活発になるため、一般的に成績がいいとされている。
ここまで、手話・点字について書いてきた。どこかの機能に障害を持っている人は、その機能を補うようにしてほかの機能が鋭敏になるという。また、先にも書いた通り、健常者のエゴで口話法を押し付けては決していけない。
資料映像①「私は奇跡ではない」
盲聾二重障がいの持ち主であるヘレン・ケラーの話です。彼女の話の中では「井戸端の軌跡」が有名すぎる。
井戸端の軌跡
パーキンス盲学校時代、アニー・サリバンはヘレン・ケラーの掌に水を当てながら「water」と文字を書き、彼女に「全てのものには名前がある」と発見させた。これが井戸端の軌跡の概要。見えない・聞こえないでモノをモノだと知覚することさえ難しかったヘレン・ケラーに「モノ」そのものを認識させることができたのは奇跡という他ない。
ここで気を付けたいのは、手のひらに水を当てながら「water」と書くことは、フィードバックそのものだということだ。前回の講義でも話題に上がったが、盲聾者は自分のやったことがわからない。なので、フィードバックをすることにより洗練している。声なら例えばてを 口に当てて。前回の映像では、指信号なんてのも出てきていた。
パーキンス盲学校
ヘレン・ケラーが通っていた学校。ここでは今でも、盲聾障がいの最先端の教育を行っている。それでも盲聾障がい者の言語習得は難儀なものであるらしい。椅子に座ってくれているだけでも、すごいことだろう。
パスカルピオーネの論文
この論文で書かれているのは主に次の内容。
- 盲聾者がモノに触れているとき、言語野のほかに視覚野と聴覚野が活発になっており、この作用によって脳に何かしらの変化が見られる。健常者にはこの傾向は見られない。
- 脳には、障がいに適応している能力が元から備わっている。また、この現象は生きているうちにずっと続く。
講義では、このような脳の変化を「模様替え」と称していた。
脳で見聞きしている
パスカルピオーネの論文からも、ヘレン・ケラーなどの盲聾者は脳で見聞きしていることが明らかになってきた。この機能こそが軌跡なのだという。ヘレン・ケラーも、自身の書籍「わたしの住む世界」の中で
指は視覚と聴覚をつかさどり、心でその情報をまとめる
と書いている。
そのほか
ケラー家は割と裕福で、農場を経営していた。
地元では「奇跡の人」が毎年演じられている。しかし、その内容は「井戸端の軌跡」のみだそうだ。
資料映像②「about 福島智」
日本のヘレン・ケラーと呼ばれる福島智さんについての映像です。一見普通に会話しているように見えましたが、ずっと昔の記憶で発生しているそうです。きっと、自分の中でその経験をフィードバックし続けているからこそ成せる業。現在は、指点字で外部の情報を入力してもらっていますが、この域に達するのは2万人いるといわれている盲聾者の中で、わずか100人ほど。専門は障害学です。