マエカワの備忘録的な何か

思い立ったが吉日

認知科学 其の四 20171025

 今回のテーマは認知神経心理学です。

障害とは何か

 障害の定義は機関によってさまざま。一般に「障害児」という言葉には身体、精神、またはそのどちらかに障害をもつ子供のことをいう。今では、メディアで「障がい」という言葉がスタンダードになりつつあるが、別に「害」という言葉だけでなく「障」という漢字にも「さしさわる」という意味がある。日本ではこのような使い分けがなされているが、英語圏ではどうだろうか。
 英語にはexceptional、irregular、abnormal、specialという言葉がある。exceptionalには「例外」の意味があり、特異な才能を持っている意味合いが強い。対して、irregular、abnormalには否定的な意味がある。specialは一見プラスの意味を持つように思えるが、「special education」は「特別教育」という意味になり、否定的な意味合いになることがある。
 障害を表す言葉には複雑な事情があるようだ。この記事では日本の風潮に合わせて、「障がい」という表現をこの記事では用いていくものとする。

日本の障がい者について

 日本の人口の約7%が障がい者と、データには載っている。しかし、ディスレクシアのようなものも含めるとその数は大きく変わってくるだろう。また、その中の6%ほどしか社会参加を試みていない。現実は厳しい。
 特別支援学校の生徒数と教師数はほぼ同じで、教師一人に生徒約一人という形になっている。一部の専門家は、これでも足りないという見解を示している。しかしながら、特別支援学校の生徒数は増えている。少子化社会であるのに、どうしてこんなことが起こっているのだろうか。「障がいを規定する仕組みそのものが変わった」のか、「本当に障がい児の数が増えている」のか。真相は定かではないが、こんな考え方ができきるだろう。
 ここで注意したいのが、障がいには精神障がいも含まれるということ。障がい者基本法に書かれていて、法律として定められている。

梅津八三について

 認知神経心理学者。先天性盲聾二重障がい児に、組織的な学習で意思疎通を取れるように訓練し、成功。また、障がい児と研究者は相互輔正関係にあるとし、重度障がい児等に関する実践研究を展開した。

認知神経心理学とは

 心的モジュールが心を形作っているとし、心的機能の検証をする立場をとっている。基本的な検証方法は脳損傷と機能障がいの対応を検討する。治療方法のパターンは、損傷個所の修復、または他部分をバイパスさせて治療。この方法をとるために、機能障がいとそのメカニズムを特定しようとしている。

資料映像 「梅津八三について」

 「見えない・聞こえない」という盲聾二重障がいを持った二人の子供について。生まれて1年後くらいに熱病にかかり、この状態に。映像では「めくら・つんぼ」という表現をしていたが、50年前の映像なのでしょうがない。
 ある程度の訓練である程度のしつけは可能。見えない、聞こえないだけで、知能障がいはないため、人間らしさや本能といったものはある。言い方は悪いが、しつけられた動物から、人間の世界にどのように持ってくるのかが課題になる。梅津はこれに「言語が必要」だという。そこで、点字を教えるという方法を最初にとった。

点字の獲得

 見えず、聞こえずなので、点字を教えるにも難しい。そこで、「見本合わせ」を用いて段階的に行っていくことになった。最初は、見本と同じ形を選ぶとクラッカー(フィードバック)を与えるという方法を用いて、形の概念を獲得*1。見本の形をどんどん小さくしていくことで、点の概念を獲得。点の組み合わせと事象の対応付けを行うことで点字を獲得することに成功した。約100語を認識することが可能だったという。

話し言葉の獲得

 次の段階では、話し言葉を獲得させるという目的で訓練を行った。これは段階的に説明する。

1段階「口の形」

 発音を獲得させるための第1段階として口の形を型紙を使って覚えさせた。まずは「あ」の発音の口の形から。

第2段階「呼吸」

 発生するには息を吐くことが必要になってくる。この概念を、手に塗ったアルコールに息を吹きかける訓練によって獲得した。フィードバックは手に冷たい感覚が走ることだ。

第3段階「喉の緊張」

 生態を震わすために、喉の緊張の概念を獲得する必要があった。実際に声を出している人の喉に手を当てる形で自分にフィードバックをかけていく。

第4段階

 以上の3ステップを同時に行うことで声を出す。

最終的に発生は可能に。このように概念を一つ一つ獲得し、それらを組み立てて目標を達成していくことがメインになってくる。この方法により、文法事項も習得できた。

そのほか

 簡単な1次方程式は解くことができるまでになっている。数字の代わりに、おはじきやクラッカーを使った学習方法を取っている。
 自分の体から離れるもの(例えばボールなど)の運動に関しては全く予測できないため、どこで手を離したら遠くへ飛ぶのかも教えてもらわないと分からない。
 スピーチをするときは、口に手を当てることで自分にフィードバックをかけている。健常者は耳で自分の声を聞き、フィードバックをかけている。見えない、聞こえないからこそ、触覚が発達し、フィードバックを行うことができるといえるだろう(補償効果)。

付けたし

 この映像の中で「話し言葉」に重点を置いて進めているのは、手話が自然言語として認められていないという時代背景がある。現在は自然言語として認知されているので、第一言語が手話という考え方が広まっている。
 また、この二人がここまでの概念を獲得・認識することができたのは、そもそもの能力が高かったからではないだろうか。いくら補償効果があるとはいえ、代数を理解したりするのは困難を極めるだろう。

*1:生まれて1年は健常者だったので、再構築といったほうが正しい。一度少しの概念は獲得しているにしても、再構築はかなり困難になる。