認知言語学 其の三 20171030
認知言語学のスタンス
構文が違うと意味が違ってくるというのが認知言語学のスタンス。その根拠となる事例が紹介された。
二重目的語構文と与格構文
例えばこんな文があったとする
- I taught Japanese to Paul.
- I taught Paul Japanese.
1.は二重目的語構文、2.は与格構文になっている。一見して意味は同じように見えるが、前者は「日本語がPaulへ移動している」ニュアンス、後者は「Paulを日本語が分かる状態にする」ニュアンスを持っている。つまり、前者の文では最終的にPaulが日本語を習得していなくても成り立つということだ。
直接目的語と前置詞句の交換
例えば、次のような文
- Mary sprayed paint on the wall.
- Mary sprayed the wall with paint.
1.は「塗料の移動」に焦点を当てているのに対し、2.では「壁の状態変化」に焦点を当てている。日本語でも同じような現象が説明できる。
- Aくんは(部屋の)本を片付けた
- Aくんは部屋を片付けた
これらは「本の移動」と「部屋の状態変化」のどちらに焦点を当てているのか、という点で違う。意味はほとんど同じだが、そこに含まれているニュアンスが若干異なる。例えば、本が散らかっている部屋を見た親が、子供に「部屋を片付けなさい」と言う。この時のニュアンスは「本を片付けろ」になっている。このように、部分を表すのに全体を使って表現することをアナトミーと呼ぶ。「黒板を消す」なんていう表現も、アナトミーに入る。
事態認知モデル
上二つの例とは少し性質が違うが、こちらも紹介。簡単に言うと、ある事柄を言葉で説明するときに、一連の流れから説明する部分を決めているという考え方。
例えば、「A君がB君を茶化して、B君がやり返したら、A君は病院送りになって、みんなはB君を怖がった」という流れを考えてみる。この一連の流れのことを、事態認知モデルではaction chainと呼ぶ。このaction chainは
- A君は病院送りになった
- B君がA君にやり返した
- B君がA君を病院送りにした
- みんなはB君を怖がった
など、いろいろな説明の仕方がある。では、なぜこのようにバリエーション豊かなのだろうか。ここには、物事を言語化するにあたって必要な概念操作がかかわってくる。
物事を言語化するには、
- スコープの設定:どの部分を言語化するか
- 認知的際立ちの設定:どこに焦点を当てるのか(主語に当たる部分)
の2ステップが必要になる。この違いが構文タイプの選択に反映される。
能動文・受動文
この二種類の構文は、焦点を当てる位置がそれぞれ違う。
- 能動文:行為に焦点を当てる
- 受動文:対象の状態変化に焦点を当てる
このように、焦点を当てる場所が違う。受動文に関して言えば、本来受動化できないものでも、「状態の変化」に焦点を当てていれば受動化できてしまう(違和感なく聞けてしまう)。
付けたし
英語と日本語の違いも少し取り扱ったので書いておこうと思う。
- 英語:結果を含意し、能動文が多い
- 日本語:結果を含意せず、能動文が多い
英文を読む際は、含意されている意味を考慮に入れないと全く別の解釈をしてしまうことがある。
また、焦点の当て方について取り扱ったが、この違いによって目的語に来る語も違ってくる。そのため、単語を覚える際は、目的語とセットで覚えたほうが断然いい。