認知工学 其の五 20171101
単語認知
単語へのアクセス時間
単語へのアクセス時間は人によって異なる。この違いはどこから来るのだろうか。答えは、これまでの成長の中で培ってきた「心的辞書」の内容だ。この内容や構造が違うので、単語へのアクセス時間が違ってくる。この時間を実験によって計測していく。
実験方法
計測する内容が反応時間の場合、その手法は大きく3つある。
- 語彙判断:単語かどうかを判断するまでの時間
- 音読・ネーミング:単語を読む、または読み始めるまでの時間
- 意味分類:単語間の正誤を判定するまでの時間
ここで注意したいのは、すべて「~までの時間」であること。判断した後まで計測内容に含めてしまうと、個人能力の差が出てきてしまうからだ(音読なんかはその傾向が強い)。反応時間は、大体800msくらいだという。1sはかからない。
このほかに、眼球運動を観察する実験もある。
この時間に影響を与える要因を分析することで、心的辞書の構造を探る研究がなされている。次はその要因について。
影響要因
- 頻度:高いほど、反応時間が短くなる。
- 習得年齢:早いほど、反応時間が短くなる
- 単語長:短いほど、反応時間が短くなる
- 隣接後のサイズ:スペルが似ている単語が多いほど、反応時間が短くなる
- 意味特徴量:多いほど、反応時間が短くなる
ざっとこんな感じ。1.と2.の相関は大きいので、どちらの影響がより大きいのかが研究されている。また、4.の要因は頻度の低い単語について有意。
プライミング法
単語間の関係を測定する方法として、プライミング法がある。これは、targetとなる単語の前にprimeと呼ばれる単語を見せることで、targetの反応時間にどのように影響があるのかを調べる方法。一般に、targetと関係のある単語をprimeとして見せておくと、targetの反応時間は短くなる。逆の場合は同じ、又は長くなる。
語形に基づくプライミング
targetのスペルに似ているprimeを提示する。この場合の効果は不安定。
意味プライミング
似ている意味の単語をprimeに設定。これは効果が高い。
プライミングのメカニズム
これは「自動処理」と「意識的処理」に分類される。
自動処理
例えば、赤い色で書かれた「GREEN」という文字を見た時、意味情報と色情報が干渉して、(言葉の意味を答える)反応時間が遅くなってしまう(Stroop効果)。これは、自分で意識せずに意味情報にアクセスしているということ。
意識的処理
あらかじめprimeとtargetを知った状態でテストをすると、意識的処理が発生する。しかし、primeの表示時間によってその振る舞いに差がある。
連想関係と意味関係
具体例を挙げると、「doctor - nurse」は連想関係、「bread - cakeは意味関係に当たる。
- 連想関係にある単語どうしは、ほぼ確実に自動処理でプライミング効果が生じる
- 意味関係にある単語どうしは、自動と意識的のどちらもあるが、意識的処理のほうが多い
プライミング法で得られる結果から、ある単語を見せると、その単語の近くにある単語とのブランチが活性化することが分かる。ブランチが活性化されると、その後同じprime - target対を見せた時の反応速度が短くなる。この現象を説明するのに、ネットワークモデルは役に立つ。
また、このほかに単語の属性や頻度がノードへのアクセス容易性に関係してくる。primeがない場合は、この要素によって反応時間が変わってくる。